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哲学の道で、桜を待つねこたち

2014年03月25日麻生圭子

京都には、「哲学の道」という一風、変わった名前の小径があります。大正時代、京都帝大の哲学者たちが好んで散策したことから、こう呼ばれるようになったのだとか。確かに京大からもゆっくり歩ける距離です。歩いているときのほうが脳は活性化する、なんてこともいいます。当時は今のように観光化もしていないし、哲学者たちにとっては、格好のリフレッシュ空間だったのかもしれませんね。
時は流れ、平成の今日は、猫が散策する小径として、猫好きの間では知られています。猫たちも哲学するのかな。ちょっと覗いてみることにしましょう。

哲学の道の猫たちのこと

何とものどかな「哲学」の風景です。

哲学の道は、京都盆地の東、琵琶湖疏水の流れに沿いながら、若王子橋から銀閣寺橋まで続く1.5kmほどの小径です。猫たちの姿が見られるのは、若王子橋付近。猫好きの人なら、どんなに急いでいても、ここを素通りすることはできないはず。1匹や2匹ではなく、集団で見ることができるのです。ベンチもあるので、猫といっしょにひだまりの中、ひなたぼっこしている人もいたりします。ポケットから何かおいしいそえなものを出そうものなら、わらわらと猫たちが寄ってくる。崖下の空家が猫たちの棲み家なのでしょうか。いる、いる、いる。来る、来る、来る。茶トラ、白茶、キジトラ、黒白……。猫島として有名なギリシャのミコノス島を彷彿させるほどです。野良猫でありながら、人間を怖がらない。おそらく地域猫として、近隣の人たちと、付かず離れず、ほどよく距離を置きながら、共存しているのでしょう。

眠りを誘うような猫と桜

春の猫、ひねもすのたりのたりかな 

ふだんはのどかな哲学の道ですが、桜が咲くころばかりは、全国から観光客の波が押し寄せいてきます。近くに住む京都人は、それを「さくら渋滞」と称してて、それもひとつの風物詩かも、なんて思ったりするのですが、「そんなええもんちゃうえ。ゴミとか捨てていかはるしな」「猫よりタチ悪いわ」と、いささかご立腹。気をつけなくては。
哲学の道の東側には、銀閣寺、法然院、安楽寺、霊鑑寺と、名刹が控えているので、それも人気を押し上げているのでしょう。でも、名所といっても、祇園(円山公園)のしだれ桜や、醍醐寺のしだれ桜のようなスター級の桜が存在するわけではないんですよ。ソメイヨシノやヤマザクラなど、どこにでもあるような桜です。言い換えるなら、目を見張るような桜ではなく、眠りを誘ってくれるような、そう、癒し系の桜なんですね。
そこに猫がいれば、答えは言わずもがな、です。

早起きは三文の徳。

雨水を飲む猫、花びらを上を歩く猫

本来なら、桜降る昼下がり、本とカメラを片手に、訪れたいところですが、猫も逃げ出すような混雑ぶりなので、桜の頃は、早朝、観光バスが動き出す前に、訪れるようにしています。朝7時から8時くらいまでが、お薦めの時間です。それより早いと、ここは東山の陰になるので、朝陽が桜に届かないのです。その時間なら、犬の散歩をしている人や、掃除をしている人、そして大型カメラを手にした人たちが、見え隠れする程度。桜の雲がかかった1.5kmほどの小径を、自分の速度で、散策することができます。
癒し系の桜ではありますが、人波に呑まれていない朝の桜は、昼間の顔とはちょっと違う。霊気を感じるというのかな。
早起きは三文の徳、という言葉を思い出すときです。

哲学の猫たちは、思想をもったホームレス。

哲学をもったホームレス・イケメン

朝桜を堪能したなら、南の終点、若王子橋の少し手前のベンチで、休憩です。
じっとしていると、寄ってくる猫もいて、ちょっと、いや、かなり、うれしい私。
そして猫を眺めていると、いつも思うんですよね。ああ、猫みたいに生きることができたらなあ。ええ、うらやましいです。しなやかでしょ、誰かに媚びることなく、といって、妙なプライドもなく、実にその思想には、無駄がない。地位や名誉、財産にとらわれることもない。ここにいる猫たちは思想を持ったホームレスなんですよ。なーんてね。
人間は愚かしい生きものだから、哲学が必要なのかもしれませんね。

麻生圭子

Aso Keiko

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1957年大分県日田市生まれ東京育ち。83年、作詞家としてデビュー。吉川晃司、徳永英明、小泉今日子などのヒット曲がある。進行性の難聴のため、91年に作詞家を休業、エッセイストに。96年から京都在。99年より、夫と猫と町家暮らし。代表作に「東京育ちの京都案内」「京都で町家に出会った。」(文春文庫)、「京都がくれた小さな生活。」(集英社be文庫)など。最新刊は「京都早起き案内」(PHP新書)。近々、ロンドンに移住予定。

関連リンク: 麻生圭子の京都のしずく


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